限定合理性を超越する共生インタラクション基盤

 現代では、人の携帯端末やソーシャルメディアにおける人々の情報発信、自動車等に設置されたセンサのデータや街中に設置されたセンサのデータなど、巨大かつ流れの速いデータが情報空間に流れ込むようになりました。しかし、流れる情報の量に対して、それを解析した結果を人が理解できる形に変え、さらに行動につながるような情報を提供するためには大きなギャップがあります。

 人は日々情報を収集し意思決定し行動していますが、今後さらに発展する情報技術を駆使しより良い営みを送る上では、人の持ちうる情報収集や情報処理能力における以下のような限界を超える必要があります。

合理性の限界:受信した様々な情報から最適な行動を決定する過程を人の感情が阻害する

働きかけの限界:情報を全ての人に伝達する過程を世界の規模や制約が阻害する

視野の限界:存在する多種多様な情報の受信を人の有限な認知能力や有限な時間が阻害する

ABCプロジェクトでは、中澤仁(慶應義塾大学環境情報学部)と大越匡(同)、中西泰人(同)、豊田正史(東京大学生産技術研究所)を主なメンバーとし「どうすれば情報の力で人の行動を拡張:Augmentできるか?」を主要なテーマとした共同研究を行なっています。


 スマートフォンを持ち歩く人々はすでに知能拡張がなされたAugmented Humanであると言えますが、H.Simonの言う限定合理性[1]から、発信者の意図通りに情報は受容されず、受容されたとしても行動変容につながるとは限らない。こうした限定合理性がローカルミニマムな定型行動の範疇に個々人を留めることは、それらの有機的な総体である社会としては不健康な状態でありスマートとは言い難い。情報通信環境と物理環境が統合された知的な環境の中でスマートフォンを持ち歩く人々が共生するためには、限定的な合理性しか持ち得ない動物であるヒトの原理を踏まえた、情報提示のストラテジーが必要である。そうした情報提示によって人はこれまでとは異なる行動の機会を得ることになれば、結果として何らかの意味でより良い行動につながり、それらの集積によって個人そして社会が健康になるはずである。こうした考えから本プロジェクトのねらいをAugmented Behavior Chance(ABC)としています。

 このABCプロジェクトでは、情報の力でAugmentされた人々が集まる街をスマートシティと捉えます。ヒトの限定合理性を超越するインタラクションが実現する技術基盤およびデザイン理論・指針を創出し、それら総体としてスマートシティにおける社会的なWellbeingの達成を図ります。街中の動的な情報を網羅的に収容する空間的な情報システムでもあるスマートシティにおいて、人々の健康や安全、利便性や楽しさを向上させることをその具体的な目標としています。

それを具体的に実現する方法として、限定合理性を構成する3つの限界:合理性の限界、働きかけの限界、視野の限界[2]をスマートシティにおいて超越すべく、1)人が情報から最適な行動を決定する過程:痛感インタラクション・中澤/大越グループ、2)街に行動の機会を行き渡らせる過程:介入的インタラクション・中西グループ,3)街から正しい情報を獲得する過程:情報視野拡大インタラクション・豊田グループ、の3つを実現するインタラクション基盤を確立します。

これにより情報の力でAugmentされた人々が、巨大な情報空間から健康に関する情報や、安全・防災に関する情報、楽しさを増幅する情報等を獲得し新たな行動への機会を得ることは、健康寿命の延伸や交通事故の削減、大規模災害への対応といった身体的健康・精神的健康・社会的健康に帰結し、ひいては社会のWellbeingを大きく促進させることができます。

[1] Simon, H. A. (2013). Administrative behavior. Simon and Schuster.
[2] 塩沢由典(1990)『市場の秩序学』筑摩書房、第11章「複雑系における人間行動」

About us

国立研究開発法人学術振興機構の戦略的創造研究推進事業:チーム型研究CRESTにおいて研究領域「人間と情報環境の共生インタラクション基盤技術の創出と展開」に取り組むために東京大学、慶應義塾大学から3つの研究室が集まった混成チームです。

Publications

本プロジェクトにおける研究成果を公開しています

People

本プロジェクトに参加しているメンバーをご紹介します