研究課題2:家具型・遊具型ロボットによる介入インタラクション

中西グループ

 人が生活する環境は行動パターンや無意識的な思考に影響を及ぼすものです。大学進学と共に奈良盆地から関東平野に引っ越した自分は、周囲に山が見えないことに当初不安を覚えました。海沿いの平地である船橋出身の友人は大学周辺の坂道が嫌いで、東京の西側に住むことになった時には川沿いの街を選んでいました。逆に八ヶ岳山麓出身の友人は埋立地である江東区辺りは車で通るだけでソワソワすると言い、坂のアップダウンがある地域を好みました。これまでに50年で15回の引っ越しをした経験からすると、住環境が変わるとそうした無意識的な思考に影響が及ぶだけでなく、買い物や通勤などの行動パターンが変わり、その総計として自分の一部が変わる感覚があります。コンサルタントの大前研一氏は、自分を変革する3つの方法として時間配分・付き合う人・住む場所の3つを変えることを挙げていますが[1]、それぞれを「習慣を変える」「人的環境を変える」「物理的環境を変える」と言い換えることができます。物理的環境を変える方法として都市計画や街区の再開発がありますが、空間のスケールと時間のスケールが大きく実現のコストが大きいです。そのため既存の建物の用途を変えるリノベーションや、移動可能な家具を街中の公園や駐車場に配置することで場所の意味を更新するタクティカルアーバニズムなどが広く実現されるようになりました[2][3]。物理的な環境を新しくコンストラクトするのではなく、既存の環境を継承してオーバーライド・上書きすることで、短い工期と低いコストで新しいアクティビティ・行動の受け皿を作り出そうとするものです。その一方で移動能力を備えた工業製品としての乗り物は、モーターホームやハウスボートのように住宅として利用されるだけでなく建築家にも大きな影響を与えました。「住宅は住むための機械である」と言った建築家ル・コルビュジェは建築の近代化を進める中で、そのアイデアを豪華客船から得た集合住宅であるユニテ・ダビタシオンを第二次世界大戦後に設計しました[4]。また1960年代にテクノロジーを駆使した都市の仮想プロジェクトを多く提案した建築家集団のアーキグラムは、都市全体が大きなロボットとなったウォーキング・シティや、都市に必要な装置がトレーラーや飛行船などで運搬され、それらが既存の都市の中に組み立てられていくとインスタントシティ等を提案しました[5]。ル・コルビュジェが1930年に発表した都市構想「輝く都市」はエレベータや自動車が可能にした現代の都市計画の原点とも呼べるものであるが、機能主義的な都市計画への批判のベースともなっている。アーキグラムは出版した雑誌の創刊号で彼らの狙いを「近代の規範を拒絶すること」と述べていますが、彼らの提案は都市の機能を組み替え可能にしようとしたものであり、店舗型の自動運転車の実用化が見込まれているいま、その提案は現実味を帯びています。人々の行動の受け皿となる空 を作り出す乗り物やロボットが、新たな物理環境を動的に生成することが可能になりつつあります。


非人間型ロボットによる動的な物理的環境の生成と都市への介入

 中西グループの研究は、新たな行動の機会を提供する方法として、非人間型の家具型・遊具型のロボットを用いて動的な物理環境を生成することで、リノベーションやタクティカルアーバニズムのような小さなスケールの物理的環境を都市に挿入し、「あのモールにたまたま行ったら遊園地が出来ててさ」「あの駐車場が公園みたくなっててつい長居しちゃった」といった行動を引き出し、限定合理性における行動の限界を超越しようとしています。さらに遊具型のロボットでは、乗り物としての電動車椅子にヘッドマウントディスプレイで提示する映像を組み合わせることで、物理的移動を超えた加速度や移動量を体感するための基礎技術を開発しています。

生成的な物理的環境を非人間型ロボットによって作り出すことのもう一つの側面は、家具のスケールで設計されたロボット達が作り出す物理的環境が、同時に人的環境にもなり得ることです。人に似た身体を持ち自然言語を処理できるような人間型ロボットとは違い、そのインタラクションは対話的・意識的なものではなく非言語的・無意識的なものになります、「たまたま」「つい」「知らないうちに」「自然と」といった形容されるような行動を引き出す形状や動き、配置を物理的環境そして人的環境として作り出していきます。

[1] 大前研一、大前流「自分を変革する」3つの方法,  https://president.jp/articles/-/17083(2022/01/16最終アクセス)
[2] 馬場正尊 他. (2020). テンポラリーアーキテクチャー:仮設建築と社会実験, 学芸出版社.
[3] 泉山塁威 他. (2021). タクティカル・アーバニズム:小さなアクションから都市を大きく変える, 学芸出版社.
[4] ル・コルビュジェ.(2010).  マルセイユのユニテ・ダビタシオン, ちくま学芸文庫.
[5] アーキグラム. (1999). アーキグラム, 鹿島出版会.
[6] Shaoqiang Wang. (2020).Urban interventions: Design Ideas for the Public Space, Hoaki.

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